メッセージ

 「それでも学校の授業だけはずいぶん熱心に聴いた。それはカラスと呼ばれる少年が強く勧めてくれ
たことだった。中学校の授業で教えられる知識やら技術やらが、現実生活でなにかの役にたつとはあま
り思えないよ、たしかに。(中略)
 でもいいかい、君は家出をするんだ。そうなれば、これから先学校にいく機会といってもたぶんない
だろうし、教室で教わることは好きも嫌いもなくひとつ残らず、しっかりと頭の中に吸収しておいたほ
うがいいぜ。君はただの吸い取り紙になるんだ。なにを残してなにを捨てるかは、あとになってきめれ
ばいいだからさ。
 僕はその忠告に従った(中略)。意識を集中し、脳を海綿のようにし、教室で語られるすべての言葉
に耳をすませ、頭にしみこませた。それらを限られた時間の中で理解し、記憶した」

海辺のカフカ 新潮文庫上巻、19-20頁

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)


3年ほど前から、個人経営の塾で中学生に数学を教えているのだが、なかなか言うことを聞いてくれない。

しかも、聞かないだけでなく「数学って意味あるの?二次関数って必要なの?平方根っていつ使うの?」と意義について尋ねてくる。これがなかなか悩ましい。

昔は、経験曲線の話やら経済学の話やらを使って説得していたが、それを毎回するのもめんどくさいし、逆に授業時間を削るのももったいない。そんな時に、この文章を読み、なぜだか共感するところがあり、いろいろと考えさせられた。

あとで考え、取捨選択する。きっと中学生以下の勉強なんてそんな考え方で良いと思う。意味を考える必要ももちろんあるのだが、そればかり考える必要もない。きっと将来自分自身で気がつく時がある。勉強すれば良かったと。

だからこそ、今は勉強できる機会に恵まれていることに感謝しなければいけない。社会人になったら、好きなことを好きな時に好きなだけ勉強できる機会なんてたかが知れている。今しかできないことを、実感を持って今実行していく。


電車に揺られながら、勉強について考えた初夏の夕暮れ時でしたとさ。